
BtoBマーケティングの世界では、自社の製品やサービスを「誰に」「どのような価値」で提供するのかを明確にすることが、成功への鍵となります。しかし、市場が複雑化し、顧客ニーズも多様化する中で、「自社の立ち位置がわからない」「効果的なアプローチ方法が見つからない」といった悩みを抱える担当者も少なくありません。
その羅針盤となるのが、マーケティングの基礎フレームワークであるSTP分析です。STP分析を用いることで、市場の全体像を把握し、自社が最も輝ける場所を見つけ、競合との差別化を図るための戦略を論理的に導き出すことができます。
本記事では、BtoBビジネスに特化したSTP分析の実践的なやり方を、図解や具体的な成功事例を交えながら徹底的に解説します。明日からのマーケティング活動にすぐに活かせるテンプレートも用意していますので、ぜひ最後までご覧ください。
なぜ今、BtoBビジネスにSTP分析が不可欠なのか?

STP分析は、Segmentation(セグメンテーション)、Targeting(ターゲティング)、Positioning(ポジショニング)の3つの要素からなる分析手法です。なぜ、このフレームワークが今日のBtoBビジネスにおいて重要視されているのでしょうか。
複雑化する市場で「勝つべくして勝つ」戦略を立てる
現代のBtoB市場は、テクノロジーの進化やグローバル化により、かつてないほど複雑になっています。次々と新しい競合が現れ、顧客の課題も多様化しています。このような状況で、やみくもに製品を売り込んでも、成果を出すことは困難です。
STP分析は、市場を細分化して顧客を深く理解し(Segmentation)、自社の強みが最も活かせる市場を選び(Targeting)、そこで独自の価値を打ち出す(Positioning)というプロセスを通じて、「誰に、何を、どのように伝えるか」というマーケティング戦略の骨子を明確にします。これにより、限られたリソースを効果的に集中させ、「勝つべくして勝つ」ための道筋を描くことができるのです。
BtoCとの違い:BtoB特有の考慮点とは?
STP分析はBtoCビジネスでも広く活用されますが、BtoBビジネスには特有の難しさがあります。
- 意思決定者の複数存在:BtoCでは個人が購入を決定しますが、BtoBでは担当者、管理者、役員など複数の人物が意思決定に関与します。
- 合理的・論理的な判断基準:製品のスペック、価格、導入実績、サポート体制など、購入の判断は極めて合理的・論理的に行われます。
- 長期的な関係性:一度の取引で終わらず、長期的なパートナーシップが重視される傾向にあります。
これらの特性を理解せずに分析を進めると、実態とかけ離れた戦略になってしまいます。BtoBのSTP分析では、企業という「組織」を顧客として捉え、その組織構造や購買プロセスまでを視野に入れた分析が不可欠です。
【図解】BtoB向けSTP分析の基本的なやり方と3つのステップ

それでは、具体的にBtoB向けのSTP分析をどのように進めていけばよいのか、3つのステップに分けて解説します。
Step1: セグメンテーション(S)- 顧客を「意味のある集団」に分ける
最初のステップは、市場全体を様々な切り口で分割し、同質のニーズや特性を持つ顧客グループ(セグメント)に分ける「セグメンテーション」です。これにより、市場の解像度を上げ、顧客理解を深めます。
BtoBでよく使われるセグメンテーションの軸には、以下のようなものがあります。
- 企業属性 :業種、企業規模(売上高・従業員数)、所在地(地理的変数)など。
- 行動変数 :製品の購買履歴、利用頻度、Webサイトの閲覧履歴、問い合わせの有無など。
- ニーズ・課題:顧客が抱える経営課題、業務上の課題、求めているソリューションなど。
- 意思決定プロセス:決裁権者の役職、購買に関わる部署、導入までのリードタイムなど。
- 企業の価値観・文化:革新性を重視する社風か、コスト意識が高い文化かなど。
- 導入状況:新規でシステムを導入するのか、競合製品からのリプレイスを検討しているのかなど。
これらの軸を組み合わせることで、より具体的で意味のあるセグメントを作成することができます。
Step2: ターゲティング(T)- 最も魅力的な市場を狙う
セグメンテーションで市場を細分化したら、次にどのセグメントを狙うべきかを決定する「ターゲティング」を行います。すべてのセグメントを狙うのは非効率的です。自社の強みを最大限に発揮でき、かつ収益性の高い市場を見極めることが重要です。
ターゲット市場を評価する「6R」ターゲット市場を評価する際には、「6R」と呼ばれるフレームワークが役立ちます。
- Realistic Scale(有効な規模):市場規模は十分か?
- Rate of Growth(成長率):今後、市場は成長するか?
- Rival(競合):競合の強さや数は?
- Rank(優先順位):自社の経営戦略と合致しているか?
- Reach(到達可能性):その市場の顧客にアプローチできるか?
- Response(測定可能性):アプローチ後の反応を測定できるか?
ターゲティングの3つの型6Rで評価したセグメントへのアプローチ方法は、主に3つの型に分類されます。
- 集中型マーケティング:特定のセグメントに経営資源を集中させる手法。多くのBtoB企業にとって基本となる戦略です。
- 差別型マーケティング:複数のセグメントに対し、それぞれ異なる製品やアプローチを展開します。
- 無差別型マーケティング:すべての市場に同じ製品を提供しますが、BtoBでは稀なケースです。
Step3: ポジショニング(P)- 顧客の心に「独自の価値」を刻む
最後に、ターゲットとして定めた市場において、競合他社と比べて自社がどのような独自の立ち位置を築くのかを明確にする「ポジショニング」を行います。顧客の頭の中に「〇〇といえば、この会社」という独自のイメージを植え付けることが目的です。
ポジショニングを明確にするためには、ポジショニングマップを作成するのが効果的です。これは、顧客が製品やサービスを選ぶ際に重視する2つの軸(例:価格と機能性、革新性と信頼性など)を取り、競合他社と自社の位置関係を可視化するものです。
このマップを作成することで、競合がいない、あるいは手薄な「空白地帯(ブルーオーシャン)」を発見し、自社が取るべき独自のポジションを戦略的に決定することができます。
STP分析を成功に導く4つのポイント

STP分析は強力なツールですが、その効果を最大限に引き出すためにはいくつかのポイントがあります。
ポイント1:客観的なデータに基づいて分析する
「きっとこうだろう」という思い込みや希望的観測だけで分析を進めてしまうと、現実離れした戦略になってしまいます。CRMのデータ、市場調査レポート、顧客へのヒアリングなど、客観的なデータに基づいて分析を行うことが不可欠です。
ポイント2:分析の順番に固執しない
「S→T→P」の順番が基本ですが、常にこの通りに進める必要はありません。時には、自社の圧倒的な強みやユニークな製品(Positioning)から考え始め、その価値が最も響く市場(Targeting)を探し、顧客層を定義(Segmentation)する「P→T→S」という逆のアプローチが有効な場合もあります。柔軟な発想で分析を進めましょう。
ポイント3:他のフレームワークと連携させる
STP分析は、マーケティング戦略全体のハブとなる重要な工程です。単体で完結させず、他のフレームワークと連携させることで、戦略の精度と一貫性が飛躍的に高まります。
分析前
3C分析(市場・競合・自社)やPEST分析(マクロ環境)で、STP分析のインプットとなる外部・内部環境の情報を整理する。
分析後
STP分析で定めた戦略(誰に、どんな価値を)を、4P分析(製品・価格・流通・販促)を用いて具体的なアクションプランに落とし込む。
ポイント4:分析をアクションプランに繋げる
最も重要なのが、分析結果を具体的なアクションに繋げることです。立派な分析レポートを作成して満足してはいけません。「誰に(Target)」「どのような価値を(Positioning)」提供するかが決まったら、「そのために何をすべきか?」を徹底的に考え、マーケティング施策や営業活動に落とし込んで初めて、STP分析は真価を発揮します。
まとめ

本記事では、BtoBビジネスにおけるSTP分析の重要性から、具体的な進め方、成功事例、そして成功のためのポイントまでを網羅的に解説しました。
複雑で変化の激しいBtoB市場において、STP分析は自社の進むべき道を照らし、限られたリソースを最大限に活用するための強力な羅針盤となります。3C分析などで得た情報を基に戦略の核(STP)を定め、具体的な戦術(4P)へと繋げていく。この一連の流れを意識することが、マーケティング成功の鍵です。
ぜひ、本記事を参考に自社のSTP分析に取り組み、競合との差別化を図り、ビジネスを新たなステージへと導いてください。