
「導入事例をWebサイトに掲載したいが、お客様からどうやって許可を取ればいいのだろう?」
「トラブルは絶対に避けたいし、できれば快く承諾してもらいたい…」
BtoBマーケティングの強力な武器となる導入事例。しかし、その「許諾」の取り方で多くの担当者が頭を悩ませています
許諾プロセスは、顧客との信頼関係に関わるデリケートな問題であり、手順を間違えればトラブルに発展しかねません。
この記事では、法的リスクを回避しつつ、顧客との良好な関係を築きながらスムーズに許諾を得るための具体的な手順とノウハウを解説します。
すぐに使える依頼メールのテンプレートも用意していますので、ぜひ貴社のマーケティング活動にお役立てください。
※導入事例の作成方法についてはこちらの記事で解説しています。
なぜ導入事例に「許諾」が絶対に必要なのか?

そもそも、なぜ許諾を取る必要があるのでしょうか?「お客様も喜んでくれているし、大丈夫だろう」という安易な判断は非常に危険です。ここでは、許諾取得の重要性を2つの側面から解説します。
① 許諾なしで公開する3つの法的リスク
無許諾での事例公開は、以下のような法的リスクを伴います。
著作権・肖像権の侵害
顧客企業のロゴ、担当者の写真や氏名、インタビュー内容はすべて著作物・肖像権の対象です。無断で使用すれば権利侵害にあたり、損害賠償を請求される可能性があります。
個人情報保護法違反
担当者の氏名や所属部署などの個人情報を本人の同意なく公開することは、個人情報保護法に抵触する恐れがあります。
契約違反(NDA)
顧客と秘密保持契約(NDA)を締結している場合、導入事例の内容が契約で定められた秘密情報に該当する可能性があります。無断公開は重大な契約違反となります。
② 「言った言わない」を防ぐための絶対的な証拠
口頭での「いいですよ」という返事だけでは、後から「そんな許可はしていない」と言われた場合に対抗できません。担当者が変わったり、会社の経営方針が変わったりすることも考えられます。
書面(メールや同意書)で許諾の証拠を残すことは、自社を守るだけでなく、顧客との認識の齟齬を防ぎ、長期的な信頼関係を維持するためにも不可欠です。
【5ステップで完璧】導入事例の許諾を得る具体的な手順とメール文例

ここからは、実際に許諾を得るための具体的な手順を5つのステップで解説します。
ステップ1:依頼のタイミングを見極める
許諾依頼の成功は、タイミングが鍵を握ります。
最も効果的なのは「顧客が製品・サービスの導入効果を実感し、満足度が高まっている時期」です。
サービス立ち上げ期などで「早く導入事例を集めたい」といった理由がある場合は、サービスに可能性を感じてくださっている「サービス導入直後」も効果的です(ただし、営業の過程で強固な信頼関係を構築している必要があります)。
| ベストタイミング | プロジェクト完了後、導入成果が出始めた直後、顧客からポジティブなフィードバックをもらった際など |
| グッドタイミング | 導入直後で期待値が高く、お客様との間に強固な信頼関係が構築できている際など |
| 避けるべきタイミング | 導入トラブルが発生している最中、契約更新の直前など |
可能であれば、契約時に「導入後、もしご満足いただけましたら、導入事例としてご協力をお願いする可能性がございます」と一言伝えておくと、その後の依頼がスムーズになります。
ステップ2:顧客メリットを伝える依頼資料の準備
依頼する際は、口頭だけでなく、具体的なイメージが伝わる簡単な資料を用意しましょう。
- 掲載イメージ:実際の掲載先(WebサイトのURLなど)や、過去の導入事例記事のサンプル。
- 取材の概要:想定している質問内容、所要時間、取材方法(オンライン、対面など)。
- 顧客側のメリット:事例として掲載されることで、顧客企業が得られるメリット(企業の認知度向上、採用への好影響、被リンクによるSEO効果など)を明記する。
- 担当者様個人のメリット(できれば):可能であれば、取材に応じていただく担当者様ご自身が得られるメリット(社内評価への好影響、外部への露出によるキャリアアップの可能性など)を添えると、承諾を得やすくなります。
特に担当者様個人のメリットを検討するためには、お客様の評価制度や担当者様が目指す将来像などを事前に把握する必要があります。この過程を通じて、担当者様との信頼関係もより一層深まります。
ステップ3:【コピペOK】依頼メールの書き方と文例
前提として、導入事例打診は、お客様との定例MTGなどで「口頭で依頼する」ことが望ましいです。
ただ、「担当者が多忙で連絡が取りづらい」、「顧客数が多くて定例MTGを設けていない」などの場合は、以下のテンプレートをアレンジして送付してみてください。
件名:
【株式会社〇〇】導入事例ご協力のお願い(株式会社△△)
本文:
株式会社□□
〇〇様
いつもお世話になっております。
株式会社△△の〇〇です。
貴社に導入いただきました弊社サービス「〇〇」につきまして、その後のご活用状況はいかがでしょうか。
さて、この度は、ぜひ貴社の素晴らしい取り組みを弊社の導入事例としてご紹介させていただきたく、ご連絡いたしました。
(ここに、なぜこの顧客に依頼したいのか、具体的な理由や称賛の言葉を入れる)
もしご協力いただけますと、貴社の先進的な取り組みを広くアピールでき、認知度向上やブランディングにも貢献できるかと存じます。
ご協力をお願いしたい内容は、以下の通りです。
- 取材形式:オンラインインタビュー(60分程度)
- 掲載媒体:弊社サービスサイト、営業資料など
- 公開までの流れ:
- インタビュー日程の調整
- インタビュー実施
- 弊社にて記事作成
- 貴社による原稿内容のご確認
- 公開
ご多忙の折、大変恐縮ではございますが、ご検討いただけますと幸いです。
添付にて、弊社の導入事例のサンプルと、簡単な企画概要をお送りいたします。
ご不明な点がございましたら、お気軽にお申し付けください。
何卒よろしくお願い申し上げます。
ステップ4:同意書(許諾書)を締結する
顧客から内諾を得られたら、正式な同意書(許諾書)を取り交わします。これにより、許諾内容が明確になり、後のトラブルを確実に防ぐことができます。
以下のテンプレートを参考に、貴社独自の許諾書を作成しましょう。
導入事例掲載に関する承諾書
【顧客企業名】
【顧客企業の代表者名 または 権限を持つ担当者名】
御中
【自社名】
拝啓
日頃より、【製品・サービス名】をご活用いただき、誠にありがとうございます。
この度は、貴社における弊社の製品・サービス(以下「本製品・サービス」という)の導入・活用事例(以下「本事例」という)について、弊社の広報およびマーケティング活動への利用にご協力いただきたく、下記の通りご承諾をお願い申し上げます。
記
1. 掲載を許諾いただく情報(以下「本件情報」という)
貴社は、本事例の作成および公開のために、以下の各項目の利用を【自社名】に許諾します。
- 許諾を得る企業名(正式名称)
- 企業ロゴ、サービスロゴ
- 担当者の所属部署・役職・氏名
- 担当者の写真、インタビュー中の様子および貴社エントランス等での撮影写真
- インタビュー内容
- 導入製品・サービス名、導入時期
- 導入効果を示す具体的な数値データ
- 取材時の動画・音声
2. 導入事例の利用目的および使用媒体
本事例は、弊社の広報活動、マーケティング活動、営業活動を目的として、以下の媒体において利用されることを許諾します。
- Webサイト:弊社公式Webサイト、オウンドメディアへの掲載
- SNS:弊社が運営するSNS(X、Facebook、YouTube等)での紹介
- 各種資料:営業資料、ホワイトペーパー、チラシ(PowerPoint、PDF等)での紹介
- イベント・その他:イベント(展示会・セミナー等)での紹介
※その他、思いつくコンテンツがあれば記載
3. 二次利用の可否(幅広い利用許諾)
貴社は、前項に定める媒体で公開・利用された本事例の内容(記事、画像、動画等)について、弊社が以下の二次利用を行うことを許諾します。
- 上記媒体・目的の範囲内で、翻訳、編集、加工、デザインの変更、抜粋を行うこと。
- 公開後も、期間の定めなく、上記媒体・目的の範囲内で継続的に利用すること。
4. 著作権・所有権の帰属
本事例の作成物(記事、写真、動画等のコンテンツ)に関する著作権および所有権は、すべて【自社名】に帰属するものとします。
5. 公開前の確認プロセス
弊社は、本事例の制作にあたり、以下のプロセスを経て公開いたします。
- 初稿提出:取材日から2~3週間後に、貴社に初稿を提出します。
- 修正・第2稿:貴社からの修正指示を反映した第2稿を提出します。
- 合意と公開:貴社とコンテンツ内容に合意の上で公開いたします。
6. 掲載停止の申し出
貴社は、企業の事情により本事例の掲載・利用の停止を希望する場合、弊社担当窓口に文書(電子メールを含む)で申し出ることができます。弊社は、申し出を受けた場合、遅滞なく本事例の掲載・利用を停止するための合理的な措置を講じるものとします。
上記内容を確認し、導入事例の掲載に同意いたします。
【許諾日】:○○○○年○月○日
(顧客企業記入)
住所:○○○○
会社名:○○○○株式会社
部署名:○○○○
氏名:○○ ○○
押印/署名
(自社記入)
住所:○○○○
会社名:○○○○株式会社
部署名:○○○○
氏名:○○ ○○
押印/署名
【本件に関するお問い合わせ】
○○○○株式会社
○○○○部
担当者名○○○○
Tel 0000-000-0000 Mail sample@sample.co.jp
〒123-4567 住所○○○○○○○○
ステップ5:公開前の最終確認と報告
作成した原稿は、公開前に必ず顧客に確認してもらいます。「ゲラチェック」と呼ばれる工程です。誤った情報がないか、表現に問題がないかなどをチェックしてもらい、修正の承認を得てから公開しましょう。
公開後も、「本日公開いたしました。ご協力誠にありがとうございました。」とURLを添えて報告することで、丁寧な印象を与え、良好な関係を維持できます。
顧客がYESと言いたくなる!許諾率を劇的に上げる6つの交渉術

手順通りに進めても、断られてしまうケースはあります。ここでは、顧客に快く協力してもらうための、一歩進んだテクニックをご紹介します。
① 顧客にとっての「メリット」を具体的に提示する
「貴社の〇〇という取り組みは業界のモデルケースになるため、発信することで先進的な企業イメージが定着します」など、相手に合わせたメリットを伝えましょう。
② 担当者様個人のメリットを提示する
可能であれば、取材に応じていただく担当者様ご自身が得られるメリット(社内評価への好影響、外部への露出によるキャリアアップの可能性など)を添えると、承諾を得やすくなります。
③ 社内調整を後押しする資料を提供する
大企業の場合、広報や法務など、担当者の一存では決められないケースが多くあります。担当者が社内で承認を得やすいように、企画の意図やメリットをまとめた資料を別途提供すると親切です。
④ もし断られたら?理由をヒアリングし次につなげる
丁重にお断りされた場合は、深追いは禁物です。しかし、「今後の参考にさせていただきたいのですが、もし差し支えなければ、ご協力が難しい理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」とヒアリングすることで、今後の改善点が見つかるかもしれません。
⑤ 心理的ハードルを下げる選択肢を用意する
「社名や個人名を伏せた匿名での掲載でも問題ございません」「ロゴマークのみの掲載でも大変ありがたいです」など、複数の選択肢を提示することで、協力へのハードルを下げます。
ただし、理想は社名を公開した状態での導入事例に協力いただくことなので、この方法は断られた場合の2次提案として用いることをお勧めします。
⑥ 契約時に「事例協力」の条項を盛り込む
最もスムーズな方法の一つが、サービス契約時に「導入事例へのご協力をお願いする場合がございます」といった条項を盛り込み、事前に同意を得ておくことです。
ただし、お客様がこの条項に気づかずに契約してしまった場合、いざ導入事例の依頼をする際に「そんなこと聞いてない!」と悪い印象を与えてしまう危険性があるため、営業チームと連携し、契約時にしっかり伝えていただくことが重要です。
まとめ
本記事では、導入事例の許諾を得るための具体的な手順と、成功率を上げるための秘訣を解説しました。
【本記事の重要ポイント】
- 無許諾の事例公開は法的リスクが非常に高い。
- 許諾の証拠は必ず書面で残す。
- 依頼は顧客の満足度が高いタイミングで行う。
- 顧客側のメリットを明確に伝え、協力へのハードルを下げる工夫をする。
- 同意書の締結と公開前のゲラチェックを徹底する。
導入事例の許諾依頼は、単なる事務的な手続きではありません。顧客の成功を称え、感謝を伝える絶好のコミュニケーション機会です。丁寧なプロセスを心がけることで、顧客満足度をさらに高め、より強固な信頼関係を築くことができます。
まずは、本記事のステップを参考に、顧客リストの整理から始めてみてはいかがでしょうか。
※導入事例の作成方法についてはこちらの記事で解説しています。